呼吸の話

 私たちは普段、何げなく呼吸をしています。意識をすることはほとんどありません。あまりにも当たり前のように行っている呼吸ですが、実は私たちは呼吸と共にエネルギーの出し入れを行い、同時に感情のバランスもとっているといわれています。

 

 インドの古いヨガの教えに「気(プラーナ)は背中から入り、口から出ていく」というものがあります。”背中がぞくっとした”という表現がありますが、これは、ネガティブなエネルギーが背中から入ってきた時の感覚を言い表したものと思われます。敏感な人は、「あ、今なんか悪いもの受けちゃったな」と感じることもあるでしょう。そんな時は、「フーッ」と大きくゆっくり口から息を吐くと良いです。人混みに行くと、様々なエネルギーを持った人たちがいて、中にはネガティブなエネルギーを放出している方もいます。そんな中に入っていく時には、私はいつも以上に呼吸を意識します。いくらバリアを張っていても、人がたくさんいる場ではどうしてもエネルギーの影響は受けてしまうので、ひたすら「出す」ことを意識するのです。これを行うようになってからは、どんなに混雑している場所に行っても、あまりマイナスエネルギーを自分の中にため込まないようになりました。私が習ったタロットの師匠は、いつもカードをきる前に「吐く息に集中して!」とおっしゃっていました。これも、自分の中にある邪気をいったん口から吐き出して、クリアーな状態になるという意味があったと思われます。

 

 また、呼吸には感情のバランスを保つ役割があると書きましたが、これは、吸う息の時には交感神経が優位になり、吐く息の時には副交感神経が優位になることと関係しています。興奮していたり、緊張していたり、攻撃的な感情に支配されている時というのは、たいてい呼吸が浅く、特に吐く息が短くなっているものです。逆にゆったりリラックスしている時というのは、呼吸が深く、フーッと自然と吐く息が出てきたりします。

 

 もし自分が興奮していたり、カリカリピリピリしているような時は、この呼吸のシステムをうまく使って、フーッと息を吐いてみるといいです。自分の中にある毒々しい感情が口の中から出ていくイメージを持つと、更に効果が上がります。フーッと息を細く長く吐き、思いっきり鼻から空気を吸って体内に酸素を送り込むと、自然と気持ちが落ち着き、ポジティブな状態に切り替わっていきます。副交感神経が優位になって、セロトニンなどの脳内物質も増えるので、リラックスして心も穏やかになります。

 

 旧ソ連時代に国家機密とされた、ロシア軍の「システマ」という訓練法でも、呼吸を用いた「ブリージング」という手法が鍵となっているそうです(北川貴英著『人はなぜ突然怒りだすのか?』参照)。ロシア軍の特殊部隊では、時には命にも関わるような緊迫した事態に直面することがあります。そんな時に、先述したような「息を鼻から思い切り吸って、口からフーッと長く吐く」という呼吸法を行うことで、平常心を保って冷静に行動することができるのだそうです。

 

 たかが呼吸、されど呼吸。自分のエネルギーをポジティブに保つために、お金もかからず、いつでもどこででもできる実践法です。