映画が教えてくれること

 ディズニー映画『アナと雪の女王』が大ヒットしているようです。外を歩くと、あちこちで主題歌の「ありの~♪ままで~♪」を口ずさんでいる子どもを見かけます。映画が流行るというのは、それに共鳴している人が多いということですが、この映画の内容はまさに今とこれからの時代の気質を反映していると感じました。

 この映画は、子供向けアニメにしては珍しく主人公が2人構成になっています。物語では、アレンデール王国という国の2人の王女のうちアナが妹で、エルサが姉で王位継承権を持つという設定になっており、2人の性格も対照的に描かれています。アナは妹らしく自由奔放でお気楽な性格、一方エルサは真面目で両親の言うことに従順に従う絵に描いたような長女気質。エルサは、生まれながらに触れたものを氷に変えてしまうという魔法の能力を持っているのですが、この力が外に知れるのを恐れた両親によって、幼い頃に手袋をはめられ封印させられてしまいます。

 エルサは、魔法を使うことを咎められたことによって、いつしかこのような特別な力を持った自分を苛むようになり、ついには部屋に引きこもって出てこなくなってしまいます。心も閉ざし、妹のアナの呼びかけにも一切応じません。そんなある時、公務で出かけた両親の乗る船が難破し、国王夫妻であった父と母は帰らぬ人となってしまいます。成人を迎えたエルサが国を継ぐことになり、女王として戴冠式に出ることになりました。聖職者から差し出された王玉を受け取る場面で、促されて仕方なく手袋を外した所、隠そうと思っていた魔法が出てしまい、物を凍らせてしまう力を国中の人に知られるところとなってしまいます。パニックに陥ったエルサは城を飛び出し、氷の山の上に逃げ、ここで誰にも邪魔されずたった一人で氷の城を作り、孤独に暮らしていく決心をします。あの有名な主題歌「ありのままで」を歌うシーンは、この場面です。

 両親から自分の本当の力を出すことを禁じられ、おとなしく言うことをきくように厳しくしつけられて育ったエルサが、今まで閉じこもってきた殻を自らの意思で打ち破り、これからはあるがままの姿で生きていくことを心に決め、自分で自分に宣言するのです。「私は自由よ!」と。

 物語はまだ先へ続くのですが、この映画と主題歌が多くの人々に共感されているのは、このエルサのように、これまで自分を縛ってきた目に見えない鎖を外したい、過去に受けた呪縛から自由になりたい、という内なる希望を持つ人が多いからなのではないでしょうか。

 私たちは知らず知らずのうちに、様々な価値観を植え付けらながら成長してきました。生まれた時には、誰もがまっさらで、何の偏見も持たない無垢な存在でした。それが、身近な存在である親や兄弟、親族、先生、といった人々と接するうちに、いつの間にかそうした人々の持つ価値観を自分自身のものであるかのように感じてしまうのです。

 娘の話によると、学校で放送委員会がアンケートをとったら、アナではなく圧倒的にエルサが好きと答えた人が多かったのだそうです。性格的には決して明るいタイプではないエルサなのですが、幼い頃から両親の教えと自分の心の声との葛藤に苦しみ、大きくなってから自分の意思でその呪縛を解き放ち、自分らしく自由に生きようと決心する姿に、子ども達も共感しているのかもしれません。

 

 後にエルサは、一度凍らせてしまったものを元に戻す方法を見つけ(気づく)、やがて山を下り、城に戻って女王として平和に国を治めることになるのですが、その魔法を解く方法がまた示唆的で素敵でした。なるほど、この力をもってすれば何でもできる、そんなパワフルな力が自分には備わっているということに、エルサは紆余曲折を経た後にようやく気付いたのでした。