「こうあるべき」から自由になる

 「苦しみ」とはどんな時に感じるのでしょうか。

 

 それは、今の状況が、自分が「こうあるべき」と考えているものとは異なっている時に強く感じるものではないかと思います。 

 

 いろんな方のお悩みを聞いていると、『本当は自分はこうありたいのに、こうあるべきなのに、そうではない』というシチュエーションに苦しみを感じていらっしゃることが多いようです。また、自分の身近な人や周りの人たちが、『こうあってほしいのに、そうではない』という時にも、ネガティブな感情が湧きおこってきて、苦しむようです。

 

 ということは、そもそも「こうあるべき」がなかったら、苦しみを感じることはなくなるのではないでしょうか。

 

 全くそれがなくなるのは難しいかもしれませんが、少なくとも、あらゆることに関して、「こうあるべき」「ああでなければいけない」といった固定観念でいっぱいの状態よりは、より多くの事柄に関して「これでいいんだ」と認めることができていた方が、そのままの状況を受け入れられるので、心が苦しむことはないと思います。批判的な思いを抱くことがなくなると、ネガティブな感情に支配されることもなくなり、自分に対しても、他人に対しても優しくなれます。

 

 

 では、どうやったら「こうあるべき」という思いがなくなるのかというと、それは一つ一つ、自分の内面にある固定観念を見つけ出しては手放していくしかないのではないかと思います。いきなり聖人のような境地を目指すのではなくて(それをやってしまうと、できていない自分にまた苦しむことになります)、少しずつ、自分を浄化していくのです。

 自分を苦しめている思い込みに気づくためには、感情や思考で頭がゴチャゴチャしていては難しいので、時々リラックスした状態で自分を見つめ直すことが大切になってきます。誰かと話したり、瞑想をしたり、お風呂に入ってリラックスしたり、自然の中をお散歩してみたり、ただボーっとしてみたり。副交感神経がオンになっている時の方が、ひらめきや内なる心と繋がりやすくなります。

 

 今、様々な事件や災害などのニュースが目に入ってきますが、こうしたニュースを見聞きした時も、「こうあるべき」という固定観念を抱いたままですと、「ひどい、なんでこんなことが起こるんだろう」とか、「許せない」といった憤りや怒りなどの感情が大きく湧いてくると思います。人間なので当然そうした感情は抱くと思いますが、いつまでもそれに支配されてネガティブな精神状態が続くと苦しくなります。

 もし、「こうあるべき」という感覚で見ることがなかったら、起こったことをそのまま受け入れることができますので、否定的な感情に襲われることなく、冷静さを保つことができます。感情に支配された状態ではなく、理性で捉えることができるので、物事を客観的に眺め、自分がそこから何を学ぶことができるのか、そうならないためにはどうしたら良いのか、今自分にできる最良のことは何なのか、といったことを冷静に考えることができます。何か問題が起こった時、感情的になることで余計状況が悪くなることはあっても、事が上手く進むことはほとんどないのではないでしょうか。

 

 

 誰にでも多かれ少なかれ、「こうあるべき」「こうでなければいけない」といった思い込みはあるものです。成長の過程で様々な人や情報から受けた影響もあるでしょうし、過去の経験からそのような価値観になっていったこともあるでしょう。 

 けれど、そうした固定観念にがんじがらめになっている間は、心の平安は訪れないままだと思います。なぜなら、自分という存在、他人、そして世の中というものは、頭の中で「こうあるべき」と考えているようになど絶対にならないからです。

 

 一度、「こうあるべき」「こうでなければならない」という自分を縛っている観念を全て取っ払ってみると、とても楽になれると思います。私もまだまだ浄化の過程にいますし、日々葛藤だらけですが、自分の内面に意識的になろうと決めてから、だいぶ心の中がスッキリしてきました。以前は気になって仕方がなかった他人のことや、人の目線など、かなり気にしなくなりました(少しは気にしますが、ものすごく気にしていた以前と比べると、だいぶ減りました)。また、世の常識とされる考え方にもずっと縛られて生きてきましたが、そうしたことからも解放されて心が軽くなりました。社会にはびこる感情的な想念の影響を受けなくなってきたのです。また、びっくりするような人に出会っても前ほど動揺しなくなりましたし、自分の価値観と異なる生き方をする人を批判的に見ることもなくなってきました。

 自分を縛っているのは、周りでも環境でもなんでもなく、自分の内側にある「こうあるべき」という固定観念でしかないのだな、と思います。本当は、誰でも意思の力で、自由になれるのです。