自分に嘘をつかない生き方

 心根が優しくて忍耐強い人ほど、他人に合わせて自分の本当の気持ちや望みを抑える傾向があるように思います。そしてそれが、人としての美徳のようにとらえられることも多いようです。

 けれど本当に、自分の気持ちや望みを押し殺して生きていくことが理想のあり方なのだろうかと、私は疑問に思います。

 

 例えば、もし私の身近にそういうタイプの人がいて、本当はこうしたいと思っているのにその気持ちを押し殺して我慢しているとしたら、我慢が生み出すストレスがこちらにも伝わりますし、私までなんとなく窮屈な気持ちになります。自分の気持ちに素直にならないと必ずストレスになりますから、結局ストレスというネガティブな波動が放出されてしまうのは止められないのです。どんなに取り繕っても、どんなに無理やり幸せなフリをしても、自分に嘘をついている人は本当のハッピーオーラは出せないものです。

 

 それから、もし、人がそのようにして自分の気持ちに逆らった生き方を続けていたら、そのうちストレスが臨界点に達して、肉体にまで影響が出てきます。ストレスは病気の最大の原因です。そうなってしまったらもはや、自分だけが我慢していればいいという問題でもなくなるのではないでしょうか。

 

 私自身、過去に何度も、自分の本当の気持ちに蓋をして、他人の望みや考えに無理やり自分を合わせて辛い思いをしたことがあります。自分の本当の気持ちに嘘をつくのは本当に苦しいものです。なぜそんな思いをしてまで自分の気持ちに素直になれなかったかというと、その時は、自分の気持ちに素直になれば、失うものが大きいと思っていたからです。そして、誰かを傷つけることになり、相手も自分も嫌な思いをすることを恐れていたからです。自信もなく、意思力も弱かったのかもしれません。

 けれど実際は、自分の本当の思いに正直になり、自分の生き方、望み、方向性をハッキリと相手にも示すことは、結果的に自分だけでなく相手にとってもプラスになるということがわかりました。最初は驚かれるかもしれませんし、相手にとってはショックなことかもしれませんが、時がたってみると、やはりあの時自分の気持ちに従って行動していてよかったのだな、と思います。人に気を遣って自分を偽っていても、本当の意味では自分も相手も幸せにならないものです。

 

 

 自分の気持ちに素直になるというのは、何もわがまま放題に振る舞うということではありません。私が『今』感じていることに、無抵抗であるということです。感情や気持ちは、自然発生的に出てくるものです。自然に湧き出てきたものを、どうやって抑え込めるのでしょうか。

 感情は、私達が自分の中に抱えている古い傷や思い込み、信念などに反応して湧き出てきます。もう必要のなくなった古い傷や思い込み、信念を手放すヒントとなってくれるものです。悪者なんかではありません。感情や気持ちを無理やり抑えたとしても、大元となっている古い傷や思い込み、信念がいつまでもそこにあり続けるのであれば、繰り返し繰り返し、似たような感情が湧き出てくるでしょうし、むしろより大きく、歪んだ形で表出してくるでしょう。

 

 自分の感情や気持ちに素直になるということは、感情を全部丸出しにするということではなく、その感情がただそこに「ある」ということを認め、受け入れ、肯定してあげることです。否定すればするほど、抵抗は大きくなります。素直に認めてしまった方が、浄化も早いのです。

 

 そのようにして自分の本当の気持ちに嘘をつかず、あらゆる内面の感情を否定せず、自分という存在をあるがままに受け入れられるようになれば、もやがかかっていたような人生が、明るく、透明な一本の道のように見えてくるようになります。それまでは、思考や感情に支配されている状態でした。思考や感情と自分が一体であるかのような幻想を抱いていました。けれど、本当の「私」は、思考や感情が偽りであることを知っています。否定し続けていた頃には理解できなった感覚です。

 否定するのをやめて、素直になること、降伏すること、委ねることを選択するようになれば、視野が広がります。感情や思考に支配されている状態ではなく、それらを無条件に受け入れてより高い見地から眺めていられるようになります。怒りがあったとしても、怒りに自分を乗っ取られるのではなく、怒りを感じている自分を落ち着いて眺めていられるのです。そこに苦しみはありません。

 

 

 感情は、本当の自分を取り戻すために、方向性を示してくれる羅針盤になってくれるものです。自分の奥底から湧き上がってくる思いは、否定をせずに、押し殺さずに、一度素直に向き合ってみるのが良いと思います。私が本当に望んでいることは何なのか、自分に嘘をついているのはなぜなのか、何が邪魔をしているのか、見えてくると思います。