脳の機能と精神力

 パチンコ屋さんの前を通ると、一瞬開いた扉の奥から、けたたましいまでの騒音が漏れてきます。かつて聞いた話なのですが、パチンコ屋さんというのは、あえて1人1人の座るスペースを狭く作ってあるのだそうです。狭い場所で、一点を見つめ続けることで、人は視野狭窄状態になり、思考が鈍ります。ひたすら玉を打ち続ける依存状態からなかなか抜け出せられなくなる環境を、計算して作ってあるのです。

 また更に、あのような耳をつんざくほどの大きな音を流し続けることも、思考停止状態を作るのに一役買っているように思います。人は絶え間ない騒音を浴びせられると、脳が疲弊し、機能が低下します。尋問や拷問などで、あえて騒音を聞かせ続けたり睡眠を削ることで、脳が正常に機能することを阻害し、人の意思力や抵抗力を奪うという手法が用いられることがあります。

 私たちがまともな判断力と思考能力を持つためには、脳をしっかりと休め、正常に働く状態を維持することが不可欠なのです。

 

 少し前に、ある有名企業に就職したばかりの新入社員が、非人間的なプレッシャーと環境の下で過重労働を強いられ、肉体も精神も疲弊仕切って生きる気力を失い、自ら命を絶つという痛ましい出来事がありました。新人にも関わらず過酷なまでの仕事量を与えられたその社員は、休日も返上で会社に通い、睡眠も限界まで削って仕事にあたっていたそうです。

 人の脳は、疲労やストレス、不眠、低栄養状態に置かれると、伝達物質がうまく分泌されず、正常に機能できなくなります。もっぱら受動的、機械的な処理だけが行われ、言われるがまま、されるがままの、主体性を欠いた言動をするようになり、抵抗する気力も失せてしまいます。

 閉鎖的な環境において、過度のストレスと仕事量を与えられ、睡眠も削り、肉体も疲労困憊している中で、まともな精神状態を維持するのは至難の業です。

 

 人間にとって休息とは、肉体を休めるためだけでなく、思考力と判断力を鈍らせないためにも重要なものなのだなと思います。疲れている時ほど、ものの見方や考え方がネガティブになり、明るい展望が描きにくくなります。一晩ぐっすり眠ったら、気持ちも頭もすっきりクリアーになって、昨日までのモヤモヤした思いがどこかに行ってしまった、なんてことはよくあります。私たちの肉体と精神は密接につながっているので、気力だけで何とかしようとせずに、肉体も大切にしてあげなければいけないなと思います。